感想戦!(人生で出会った本や音楽、そして日々の出来事)

今年(2021年)の9月に還暦を迎える事が出来ました。今までの人生で出会った本や音楽について勝手気ままに綴ってみようと思います。

The Member of the Wedding  を再読して

 「結婚式のメンバー」(著:カーソンマッカラーズ 訳:村上春樹)を再読した。最初に読んだときは風変わりな少女の物語で少々退屈だなと思ったが、今回の再読では村上春樹さんの訳文の素晴しさもあり物語にグイグイ引き込まれ読み進める事が出来た。この小説を一言で言うなら、一人の少女(12歳)の自我の目覚めと自分探しとなるかもしれない。しかし、その様な陳腐な表現に収まらずにそれ以上の何かがこの物語にはある。
 自分を取り巻く壁からの脱出、ここでは無い何処か、それらをもがきながら時には暴力的に得ようとする少女の言動が生々しく描かれている。この小説の舞台はアメリカ南部の田舎町、時はアメリカが太平洋戦争で日本と戦っている頃である。主人公のフランキーはどのクラブにも属していない孤独の少女であり、結婚する兄の結婚式に出席した後に新婚旅行にくっついて自分の住んでいる町から出ようと企てる。当たり前だが、そんな無理な企ては
失敗というより相手にされず終わってしまう。その後、彼女は家出を試みるがこれも失敗し、日常に戻っていく。
 この小説は、(巻末の)村上春樹さんの訳者解説によると著者のカーソンマッカラーズの自伝的小説らしい。
この小説を読み終えた私は、主人公のフランキー・アダムズからシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の
ジュリエットを思い浮かべた。年齢は近いが時代背景は勿論の事、生活環境、容姿共々二人には全くの共通項は無い。フランキーは兄の結婚式の前日(もう明日には、兄の新婚旅行にくっついて町を出ようとしている日)突如、自らをF・ジャスミンと名乗り始め勝手に改名した。ここを読んで私は、ジュリエットがロミオを思いながらのバルコニーのシーン「ああロミオ、ロミオどうしてあなたはロミオなの?」(訳:松岡和子 )と祈るように唱え、対立する互いに家の名前に囚われている自分達の家の名前からの解放を願う場面を思い浮かべた。勝手に改名したF・ジャスミンは自らに問う「でもわたしの古い名前のまわりにいったい何が積み上げられたの?」時代を超えた二人の少女は過去を捨て去り、新たな自分として生きる為の闘いを始めたと言えよう。ジュリエットはロミオとの結婚を、改名したF・ジャスミンは兄と兄嫁と共に3人の「結婚式のメンバー」で世界中を巡り歩き、多くの人と繋がり「わたしたちは世界全体のメンバーになる」為に歩み始めた。しかし、(ご存知の様)ジュリエットには悲劇的な死が、F・ジャスミンは元の生活に連れ戻される。所詮、人々の間の、人々を閉じ込めている壁を崩し「世界全体のメンバーになる」事は常識的にも無理な事であり幻想でしか無いと言えよう。これで、F・ジャスミンの闘いは終わったのだろうか? やがて成人した彼女(カーソンマッカラーズ)は作家となり、自らの作品で多くの人(読者)と繋がる事で壁を取り除き「世界全体のメンバー」なる為の闘いを「物語」という武器を手に入れ継続したと言えるだろう。(少なくとも)私は、この不思議で力強い小説「結婚式のメンバー」によってカーソンマッカラーズと繋がる事が出来た。